、彼は師匠の勘当をゆるされようと考えたのであった。
 翁との話はここらで打ち切って、千枝太郎は早々にここを出た。出る時に、彼は再び隣りの柿の梢をみあげると、その高い枝は青い大空を支えているように大きく拡がって、ところどころにはもう薄紅い光沢《つや》をもった木の実が大きい鈴のように生《な》っていた。幼い藻の顔と臈たけた玉藻の顔とが一つになって、彼の眼さきを稲妻のようにひらめいて通った。
「あきないが遅うなる」
 千枝太郎は京の方角へ足を向けた。
 むかしの相弟子や知りびとに顔をあわせるのがさすがに辛《つら》いので、彼はこれまで京の町へは商売《あきない》に出なかったが、商売はどうでも京の町にかぎると叔父からも教えられ、自分もそう覚《さと》ったので、きょうは思い切って繁華な町の方へ急いで行った。その目算は案外に狂って、顔馴染みのない若い職人をどこでも呼び込んでくれないので、彼はひどく失望した。一日根気よく呼びあるいても、彼は京の町で一文も稼ぐことは出来なかった。
 九月はじめの秋の日は吹き消すようにあわただしく暮れかかって、うすら寒い西山おろしが麻の帷子《かたびら》にそよそよと沁みて来たので
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