、千枝太郎はいよいよ心寂しくなった。こうと知ったら京の町まちへ恥がましい顔をさらして歩くのではなかったものをと悔やみながら、疲れた足を引き摺ってとぼとぼと戻ろうとすると、六条の橋の袂で呼び止められた。
「烏帽子折りか。頼みたい」
振り返ると、それはもう六十に近い、人品のよい武士で、引立《ひきたて》烏帽子をかぶって、萌黄と茶との片身替わりの直垂《ひたたれ》を着て、長い太刀を佩《は》いていた。彼は白い口髯の下から坂東声《ばんどうごえ》で言った。
「それがしはこのごろ上《のぼ》った者じゃで、都の案内はよう存ぜぬが、見るところ烏帽子折りであろう。頼まれてくれぬか」
「心得ました」
そこですぐに荷をおろすと、武士は一人の家来を見かえって、その烏帽子が折れたら受け取って来いと言い付けて、自分はそのままに行き過ぎてしまった。
「手もとは暗うはないかな」と、あとに残された家来は千枝太郎の手もとを覗きながら言った。
「いえ、烏帽子一つ折るほどの間《ひま》はござりましょう」と、千枝太郎は手を働かせながら答えた。
「して、お前さま方は坂東の衆でござりまするか」
「おお、相模《さがみ》の者じゃよ」と、家来
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