かりで、その子細は誰にも判らなんだ。すると、その晩のことじゃ。弥五六は急に死んでしもうた。丁度わしの婆と同じように、喉を喰い裂かれて……」
「その上臈はどんな顔かたちであったかな」と、千枝太郎は忙がわしく訊いた。
「それは知らぬ。わしが見たのでない、唯その話を人から聞いたまでじゃ」と、翁はおちつき顔に答えた。「しかしわしの考えでは、それが古塚のぬしであろうも知れぬ。うかと出逢うたが弥五六の不運じゃ。それに懲りてこの頃では、日が暮れてからあの森の近所を通り過ぎるものは一人もないようになった」
「不思議じゃのう」
「不思議というよりも怖ろしい。お前も心してその祟りに逢わぬようにおしやれ。婆や弥五六がよい手本じゃ」
その上臈がもしや玉藻ではないかという疑いが、千枝太郎の胸にふと湧き出した。果たしてそうならば、藻は塚のぬしに祟《たた》られて、その魂《たましい》はもう入れ替わっているのである。たといその形はむかしの藻でも、今の玉藻の魂には悪魔が宿っているのである。彼はその疑いを解くためにこれから毎晩その森のあたりに徘徊して、怪しい上臈の姿を見とどけたいと思った。そうして、それを一つの手柄にして
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