いて、叔父や叔母に孝行を尽くそうと、彼もこの頃ではあきらめた。師匠のこと、玉藻のこと、それが胸いっぱいに支《つか》えているのを、彼は努めて忘れようとしていた。
 きょうもそれをうっかりと考えていると、翁は日影がだんだん映《さ》しこんで来るのにまぶしくなったらしい。だるそうに立ちあがって入口の蒲《がま》すだれをおろした。
「千枝ま[#「ま」に傍点]よ。なにを思案している。叔父御や叔母御もお前が戻ったので喜んでいよう。むかし馴染みが帰って来てわしも嬉しい。これからは今までのように遊びに来ておくりゃれ。よいか。あれ、お見やれ。となりの門《かど》の柿の実は年ごとに粒が大きくなって、この秋も定めて美事に熟《う》れることであろうよ」
「そうであろうのう」
 ここの門《かど》に立った時に、千枝太郎もすぐに隣りの梢を仰いだのであった。実がまだ青いので、そこに大きい鴉《からす》の影はみえなかったが、彼は藻と一緒になってその梢の憎らしい鴉を逐《お》った秋を思い出さずにはいられなかった。今も翁からそれを言い出されて、彼は蒲すだれの外をのぞきながら低い溜息を洩らした。
「月日のたつのは早いものじゃのう」
「ほ
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