で初めて言い出した。「先度《せんど》も物に狂うた法師にとらわれて、ほとほと難儀しているところを、お前に救うてもろうたに、今夜もまた……。とりわけて今夜の怖ろしさ、わたしは生きている心地もなかった」
「関白殿のお屋形には犬を飼うておられぬか」
「わたしは犬が大嫌いじゃで、殿に願うて一匹も残さず追い払うてしもうた」
「犬もおとなしければ可愛いものじゃが、群がって来て人を噛もうとする、そのような野良犬は憎いものじゃよ」と、千枝太郎も言った。
「わたしがこのように夜歩きして、犬に悩まされたなどということを、誰にも言うて下さるな」と、玉藻は頼むように言った。
「おお、誰にも言うまい。このようなことがひとに知れたら、わしも叱らるるわ」
「お師匠さまにか」
千枝太郎はだまって月を仰いでいた。
「思えば不思議なものじゃ」と、玉藻は溜息をついた。「こうしてお前と親しゅうなりながら、お前のお師匠さまはわたしを仇のように呪うているお人、そのお弟子なりゃお前とわたしも仇同士、二人の行く末はどうなろうかのう」
千枝太郎も引き入れられるような寂しい心持になった。玉藻はまた言った。
「くどくも言うようじゃが、お
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