な」と、千枝太郎はあるきながら考えた。
しかし彼は逞《たくま》しい若者である。賊の一人くらいは取りひしいで呉れようという息込みで、わざと大股に辻のまん中へ進んでゆくと、犬の声はだんだんに近くなった。一匹でない、四方八方から群がって来て、何者をか取り巻いているらしかった。
見ると眼の前には一人の女が立ちすくんでいた。被衣《かつぎ》を深くして、しかもこちらを背にして立っているので、その顔はもとより判らなかったが、それが玉藻であるらしいことは直ぐに千枝太郎の胸に泛《う》かんだ。彼女はまだここらをさまよっていたらしく、あまたの犬は牙《きば》をむき出して彼女を遠巻きにしているのであった。犬のなかには熊のように大きいのもあった。虎のように哮《たけ》っているのもあった。しかしかれらは、なんの武器をも持たない女ひとりを噛み倒すほどの勇気もないらしく、唯すさまじい唸り声をあげて、いたずらに地上に映る女の影に吠えているばかりであった。
孱弱《かよわ》い女子《おなご》が群がる犬に取り巻かれている。それが見ず識らずの人であっても見過ごすことは出来ないのに、まして相手は玉藻であるらしいので、千枝太郎の胸は
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