色に濁ってきた。まぶしい日の光りが吹き消されたように暗くなった。
「わあ、天狗じゃ」
 岸の上では群衆《ぐんじゅ》が俄にどよめいた。天狗か何か知らないが、化鳥《けちょう》がつばさを張ったようなひとむらの黒雲が今度は男山《おとこやま》の方から湧き出して、飛んでゆくように日の前を掠《かす》めて通ったのである。その雲が通り過ぎると、下界は再び薄明るくなったが、空の鼠色はもう剥げなかった。
「雨たびたまえ。八大龍王」
 玉藻が榊の枝をひたいにかざして、左に右に三度振ると、白い麻はすすきのように乱れて、黄金《こがね》の釵子《さいし》をはらはらと撲《う》った。
「や、雨じゃ」
 岸の上では一度に叫んだ。湿気を含んだ冷たい風が壇の四隅の笹竹を撓《たわわ》にゆすって、暗い空の上から大粒の雨がつぶてのように落ちてきた。
「八大龍王、感応《かんのう》あらせたまえ」
 玉藻はすっくと起ちあがって再び叫んだ。ひたいの釵子は斜めに傾きかかって、黒い長い髪はおどろに振り乱されていた。その蒼白い顔を照らすように、大きい稲妻が壇の上を裂けて走った。
「雨じゃ、雨じゃ」
 警固の侍までが空を仰いで声をあげた。瀧のような
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