って行った。道理に責められて、泰親も席を譲らないわけにはいかなくなった。彼はよんどころなしに壇を降りると、その白い影につづいて、青も赤も黄も黒もだんだんに退いて、五つ衣に唐衣を着た美しい女が入れ代って壇上のあるじとなった。彼女は顋《あご》で差し招くと、供の侍は麻の幣《しで》をかけた榊《さかき》の枝を白木の三宝に乗せて、うやうやしく捧げ出して来た。玉藻はしずかにその枝を把って、眼をとじて祈り始めた。
 泰親は灼《や》けた小石にひざまずいて、息をのんで彼女の祈祷を見つめていた。頼長も手に汗を握って窺っていた。玉藻がなんの悩める体《てい》もなしに、調伏の壇へ易《やす》やすと踏みのぼったということが、すでに泰親の敗北を意味しているのであった。この上に万一彼女が祈祷の奇特があらわれて、ひと粒の雨でも落ちたが最後、泰親は彼女の前にひざまずいてその罪を詫びなければなるまい。頼長も信西も気が気でなかった。
 未《ひつじ》の刻(午後二時)をすこし過ぎた頃、比叡《ひえ》の頂上に蹴鞠《けまり》ほどの小さい黒雲が浮かび出した。と思う間もなしに、それが幔幕《まんまく》のようにだんだん大きく拡がって、白い大空が鼠
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