でない。人の誠が足らぬからかと存じまする」
「それもあろうか」と、忠通はうなずいた。「弟が兄をかたむけようと企て、味方が敵になる世の中じゃ。人に誠の薄いのも是非ないか」
 玉藻は忠通をあおいでいる唐団扇《とううちわ》の手を休めて、しばらく考えているらしかったが、あらためて主人の前に手をついた。
「唯今も仰せられました通り、あらゆる神社仏閣の雨乞いが少しも効験《しるし》のないと申すは、世も末になったかのように思われて、神ほとけの御威光も薄らぐと存じられまする。さりとは余りに勿体ないこと。就きましては、不束《ふつつか》ながらこの玉藻に雨乞いの祈祷をお許しくださりませぬか」
 小野小町は神泉苑《しんせんえん》で雨を祈った。自分に誠の心があらば神も仏もかならず納受《のうじゅ》させらるるに相違ないと彼女は言った。なるほどそんな道理もあろうと忠通も思った。この玉藻ならばむかしの小町に勝るとも劣るまい。彼女の誠心《まごころ》が天に通じて、果たして雨を呼ぶことができれば世の幸いで、万人の苦を救うことも出来るのである。もう一つには、ここで彼女にそれだけの奇特を示させて置けば、かの采女の問題もやすやす解決
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