、もう一度彼女の正体を確かに見とどけたいと思った。
「きょうの法会はなんどきに果つるかのう」と、彼は独りごとのように言った。
「申《さる》の刻じゃと聞いている」と、翁は言った。「諸人が退散するまでにはまだ一刻余りもあろうよ」
言ううちに、前の方に詰め寄せていた人々は、物に追われたように俄に崩れて動き出した。その人なだれに押されて、突きやられて、翁と千枝太郎は別れ別れになってしまった。法会は中途で急に終わって、参列の諸人が一度に退散するために、先払いの雑色《ぞうしき》どもが門前の群集《ぐんじゅ》を追い立てるのであった。
法会はなぜ中途で終わったのか。千枝太郎は逢う人ごとに訊いてみたが、誰にも確かなことは判らなかった。しかし衆僧をあつめて読経の最中に、大導師の阿闍梨がなにを見たのか、急に顔の色を変えて額《ひたい》に玉の汗をながして、数珠の緒を切って投げ出して、壇からころげ落ちたというのが事実であるらしかった。
「魔性のわざじゃ」
千枝太郎も顔の色をかえて早々に逃げ帰った。阿闍梨はなにを見て俄に取り乱したのか、おそらく参列の人びとのうちにかの玉藻の妖艶な姿を見いだして、その道心が怪しく
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