乱れ始めたのであろう。生きながら魔道へ引き摺られてゆく阿闍梨の浅ましい宿業《しゅくごう》を悼むと共に、千枝太郎は自分のお師匠さまの眼力の高く尊いのをいよいよ感嘆した。
 しかしこれを察したのは千枝太郎の師弟ばかりで、余人の眼にはこの秘密が映らなかった。高徳のひじりが物狂《ものぐる》おしゅうなったのは、天狗の魔障《ましょう》ではあるまいかなどと、ひたすらに恐れられた。そうして、それが日の本の仏法の衰えを示すかのように、口さがない京わらんべは言いはやすので、忠通はいよいよ安からぬことに思った。なまじいのことを企てて、かえって自分の威厳を傷つけたように口惜しく思われた。彼は眼にみえない敵に取り囲まれて、四方からだんだんに圧迫されるような苦しみをおぼえて、その神経はいよいよ尖って来た。この頃の彼は好きな和歌を忘れたように捨ててしまった。政務もとかくに怠り勝ちで、はては所労と称して引き籠った。
 ことしの夏は都の空にほととぎすの声は聞こえなかったが、五月雨《さみだれ》はいつもの夏よりも多かった。五月に入ってからは殆んど小やみなしに毎日じめじめと降りつづいて、若葉の緑も腐って流れるかと思うばかりに
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