でなんとでも言い訳は出来るようなものの、かりにも左少弁たる人を河原で暗撃《やみう》ちにしたとあっては、後日の詮議が面倒である。憎い奴ではあるが、さすがに殺すまでにも及ばなかったとも悔まれた。今夜の河原は闇である。この闇にまぎれて逸早《いちはや》くここを立ち退いてしまえば、相手は殺され損で、誰にも詮議はかかるまいと思うと、実雅は俄にあとさきが見られて、あわてて血刀を兼輔の袖でぬぐってそっと鞘《さや》に収めようとすると、うしろからその肩を軽く叩く者があった。ぎょっとして振り返ると、自分のそばには玉藻が立っていた。凄いほどに白い彼女の笑顔は、暗い中にもありありと浮き出して見えた。
「見事になされました」
 相手があまりにも落ち着き払っているので、実雅はすこし気味が悪くなって、無言のままで突っ立っていると、玉藻は重ねて言った。
「かたきを仕留められたのは男の面目、見事にも立派にも見えまするが、これからのちを何とせられまする。相手を殺して卑怯にも逃げられますまい」
 星をさされて、実雅は又ぎょっとした。彼は太刀を鞘に収めるすべも知らないように、唯ぼんやりと立っていた。
「お身さまも男じゃ、少将ど
前へ 次へ
全285ページ中145ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング