のじゃ。仇の亡骸《なきがら》を枕にして見事に自害なされませ」と、玉藻は命令するように言った。
 この怖ろしい宣告を受けて、実雅は我にかえった。しかし彼はその命令に服従する気にはなれなかった。どうで自分の物にならない女ならば、いっそここであわせて玉藻を殺して、後日《ごにち》の口をふさぐ方が利益であると、彼は咄嗟のあいだに思案を決めた。彼はなにか言おうとするように見せかけて、玉藻のそばへひと足|摺《す》り寄ると同時に、手に持っている太刀を颯《さっ》とひらめかせると、刃《やいば》は空《くう》を切って玉藻の姿は忽ち消えた。おどろいて見廻すと、玉藻は彼の左に肩をならべて笑いながら立っていた。
 実雅はまた横に払った。その刃もおなじく空を切って、玉藻は更に彼の右に立っていた。彼は焦《じ》れて右を切った。左を切った。うしろを払った。前を薙《な》いだ。彼は独楽《こま》のようにそこらをくるくると廻って、夢中で手あたり次第に切り払ったが、一度も手ごたえはなかった。焦れて狂って、跳り上がって、彼は暗い河原を東西に駈けまわって、果ては狂い疲れてそこにばったり倒れた。倒れるはずみに彼は自分の刃で自分の胸を深く貫
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