出来れば、末代までも家の誉《ほま》れじゃ」
 泰親は、力強い声で言った。

    二

「阿闍梨も気が狂うたそうな」
 丁度それと同じ頃に、おなじ詞《ことば》が関白の屋形にある玉藻の口からも洩れた。彼女は兼輔の文《ふみ》によってそれを知ったらしく、その文を繰り返して見入っていた。文は阿闍梨の病気のことを報らせて、自分は今夜その見舞いに法性寺へ参ろうと思うが、お身も一緒にまいらぬかという誘いの文句であった。
 阿闍梨と兼輔とは叔父甥の親しい仲である。それが唯ならぬ病いに悩んでいると聞いたらば、何を差しおいても直ぐに見舞うべき筈であるのに、わざわざ女子《おなご》を誘ってゆく。しかも夜を択んでゆく。兼輔の本心が叔父の病気見舞いでないことは見え透いていたが、玉藻は躊躇せずに承知の返事をかいた。しかし若い男がたびたび誘いに来られては、主人の手前、余人の思惑、自分もまことに心苦しいから、四条の河原で待ち合わせてくれと言ってやった。
 日の暮れるのを待って、玉藻は屋形を忍んで出た。暦はもう卯月《うづき》に入って、昼間から雨気《あまけ》を含んだ暗い宵であった。その昔、一条戻り橋にあらわれたという鬼女
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