ので、千枝太郎は又ぞっとして師匠の顔をみあげると、泰親はさらに説明した。
「思うても怖ろしいことじゃ。お身が河原で玉藻にめぐり逢うたのは、彼女《かれ》が法性寺詣での戻り路であった。左少弁兼輔の案内で、阿闍梨は玉藻に面会せられた。それから後は何とやらん様子が変わって、よそ目には物に憑かれたとも、物に狂うたとも見ゆるとやら。余人はその子細を覚らいで、ただただ不思議のことのように驚き怪しんでいるが、泰親の観るところでは、これもかの悪魔のなす業《わざ》じゃ。まず日本の仏法を亡ぼさんがために碩学高徳の聖僧《ひじり》の魂に食い入って、その道念を掻き乱そうと企てたのであろう。それを知らいで、うかうかとかれの手引きをした左少弁殿も、その行く末はどうあろうのう」
さきの日、河原で出逢った若い公家が左少弁兼輔であることを、千枝太郎は初めて知った。その当時、彼は一種の妬みの眼を以《も》ってその人を見ていたのであるが、今となっては、彼は憫《あわ》れみの眼を以ってその人を見なければならないようになった。
「しかし、恐るるには及ばぬ。泰親はよい時に生まれあわせた。わしの力で悪魔を取り鎮めて、世の暗闇を救うことが
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