やかし》に憑かれたのであった。彼はこれから一七日《いちしちにち》の間、斎戒《さいかい》して妖邪の気を払わなければならないと思った。
自分にはお師匠さまという者が付いている――こう思うと、彼は又俄に心強くもなった。未熟な自分の力ではとてもその妖魔に打ち勝つことは覚束ないが、お師匠さまの力を仮りればかならず打ち勝つことが出来る。お師匠さまもまたそれに苦心していられるのであるから、及ばずながらも自分はお師匠さまに力を添えて、ともどもに悪魔調伏に一心を凝らさなければならない。悪魔がほろぶれば自分ひとりの命が救われるなどという小さい事ではない、この日本の国を魔界の暗闇から救うことも出来るのである。彼は一生の勇気を一度に振るい起こして、悪魔と向かい合って闘わなければならないと、強い、強い、健気《けなげ》な雄々しい決心をかためた。彼はその夜の更けるまで机に正しく坐って、一心不乱に安倍晴明以来の伝書の巻を読んだ。
それから十日《とおか》ほど経って、泰親は外から帰ってくると、そっと千枝太郎を奥へ呼んだ。
「法性寺の阿闍梨も気が狂うたそうな」
阿闍梨もという言葉に深い意味が含まれているらしく聞こえた
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