なご》から鏡を借りて来て、自分の顔をつくづくと映してみた。彼は幾たびか眼を据えて透かして視たが、自分の若々しい顔の上から死相を見いだすことは出来なかった。かれは溜息と共に鏡を投げ出した。
「陰陽師、身の上知らずとはこれじゃ」
 それにつけても師の泰親は万人にすぐれて偉い、尊い人であると、彼は今更のように感心した。信西入道も偉いと思った。彼は自分の学問未熟を恥ずると共に、師匠や信西を尊敬するの念がいよいよ深くなった。こうした尊い師匠に救われて、親しくその教えをうけているおのれは、いかに幸いであるかということも、しみじみと考えさせられた。
「なんでもお師匠さまのお指図通りにすればよいのじゃ」と、今の彼はこう素直に考えるよりほかはなかった。
 実をいえば、さっき河原で玉藻に別れるときに、女はそこへ来あわせた若い公家《くげ》の手前を憚って、口ではなんにも言わなかったが、その美しい眼が明らかに語っていた。それは近いうちに又逢おうという心であることを千枝太郎は早くも覚った。彼もおなじ心を眼で答えて別れた。しかし今となっては、もうそんなことを考えるさえも怖ろしかった。自分はその一刹那から再び怪異《あ
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