上であった。泰親はさきに山科の玉藻の住家を凶宅とうらなって、それからだんだん注意していると、玉藻という艶女《たおやめ》は形こそ美しい人間であれ、その魂には怖ろしいあやかしが宿っている。悪魔が彼女の体内に隠れ棲んでいる。それを知らずに、関白殿は彼女を身近う召し出されて、並なみならぬ寵愛を加えられている。その禍いが関白殿の一身一家にとどまれば未《ま》だしものことであるが、悪魔の望みは更にそれよりも大きい。それからそれへと禍いの種をまき散らして、やがてはこの日本を魔界の暗黒に堕《おと》そうと企てているのである。――こう話してきて、泰親は一段とその声をおごそかにした。
「お身に心せいというのはこのことじゃ。広い都にかの女性《にょしょう》を唯者《ただもの》でないと覚っているものは、この泰親のほかにまだ一人ある。それは少納言の信西入道殿じゃ。かの御仁《ごじん》も天文人相に詳しいので、とかくに彼女《かれ》を疑うて、さきの日わしに行き逢うた折りにもひそかに囁かれたことがある。関白殿はもうかれに魂を奪われていれば、とても一応や二応の御意見で肯《き》かりょうとも思われぬが、唯ひとつの頼みは弟御の左大臣殿じ
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