ゃ。信西入道からかの殿に申し勧めて、玉藻をまず関白殿の屋形から遠ざけ、さてその上で悪魔調伏の秘法を行ない、とこしえに禍いの種を八万奈落の底に封じ籠めてしまわねばならぬ。その折柄《おりから》にお身がうかうかと再びその悪魔に近づいて、なにかの秘密を覚られたら我われの苦心も水の泡じゃ。悪魔は人間よりも賢い。それと覚ったら又どのような手だてをめぐらそうも知れぬ。きょうは自然のめぐりあいで、まことに余儀ない破目《はめ》であるが、これを機縁に再び彼女《かれ》と親しゅうするなど夢にもならぬことじゃと思え。この教えに背いたらお身の命はかならず亡ぶる。きっと忘れまいぞ」
「ありがたい御教訓、胆《きも》にこたえて決して忘れませぬ」と、千枝太郎は尊い師匠の前で立派に誓った。
「わかったかな」と、泰親はまだ危ぶむような眼をしていた。
「判りました」
半分は夢のような心持で、千枝太郎は師匠の前を退がった。自分の部屋へ戻って、彼は机の前に坐ったが、あまりに思いも付かない話をだしぬけに聴かされたので、彼の頭は恐怖と驚異とに混乱してしまった。あの可愛らしい藻、あの美しい玉藻、それに怖ろしい悪魔のたましいが宿っている
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