あろうか」
 言いかけて、彼は玉藻と眼をみあわせると、血の枯れた老僧の指先はおのずとふるえて、数珠はさらさらと音するばかりに揺れた。玉藻の顔色にばかり眼をつけていた兼輔はそれに気がつかないらしかった。
「では、かさねて参ります。かならずお逢いくだりませ」
 又の日を約束して、玉藻は阿闍梨の前を退がった。兼輔も一緒に立った。阿闍梨は縁まで出ていつまでも見送っていたが、枯木のような彼は急に若やいだ心持になって、総身の血汐が沸くように感じられた。彼は燃えるような眼をあげて夢ごころに陰った空を仰いでいると、なま暖かい春風が法衣《ころも》をそよそよと吹いた。何とは知らず、彼は幾たびか溜息をついて、酔ったような足どりで本堂の方へゆくと、昼でも薄暗い須弥壇《しゅみだん》の奥には蝋燭の火が微かにゆらめいて、香の煙りがそこともなしに立ち迷っていた。その神秘的の空気のうちに、阿闍梨はだまって坐った。
 彼はいつものように観音経を誦《ず》し出そうとしたが、不思議に喉《のど》が押し詰まったようで、唱え馴れた経文がどうしても口に出なかった。胸は怪しくとどろいてきた。ふと見上げると、正面の阿弥陀如来の尊いお顔がい
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