容易なことではないので、彼も途方にくれて窃《ひそ》かに溜息をついていると、遠い入口に待たせてあるはずの玉藻がいつの間にここまで入り込んで来たのか、板縁伝いにするりと長い裳《もすそ》をひいて出た。
 兼輔はすこし驚いた。阿闍梨は眼を据えて、今ここへ立ち現われた艶女《たおやめ》の姿をじっと見つめていると、玉藻はうやうやしくそこに平伏した。
「はじめてお目見得つかまつりまする」
 老僧は会釈もしなかった。彼はしずかに数珠を爪繰っていた。
「委細は左少弁殿からお願い申し上げた通りで、あまりに罪業《ざいごう》の深い女子の身、未来がおそろしゅうてなりませぬ。自他平等のみ仏の教えにいつわりなくば、何とぞお救いくださりませ」と、玉藻は哀れみを乞うように訴えた。
 彼女は物詣でのためにきょうは殊更に清らかに粧《つく》っていた。紅や白粉《おしろい》もわざと淡《うす》くしていた。しかもそれが却って彼女の艶色を増して、玉のような面《おもて》はいよいよその光りを添えて見られた。堪えられぬ人間の悲しみを優しいまなじりにあつめたように、彼女はその眼をうるませて阿闍梨の顔色を忍びやかに窺ったときに、老僧の魂《たま》の
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