にあさっていた。
 叔父と甥との打ち解けた間柄であるので、兼輔はすぐに奥の書院へ通されて、隆秀阿闍梨とむかい合って坐った。阿闍梨はもう六十に近い老僧で、関白家建立のお寺のあるじには不似合いの質素な姿であったが、高徳の聖《ひじり》と一代に尊崇されるだけの威厳がどこやらに備わって、打ち解けた仲でも兼輔の頭はおのずと下がった。
「左少弁どの、久しゅう逢わなんだが、変わることものうてまずは重畳《ちょうじょう》じゃ。きょうは一人かな」
「いや」と、言いかけて兼輔は少し口ごもった。
「連れがあるか」と、阿闍梨は俄に気がついたように甥の顔をきっと見た。「お身のつれは女子《おなご》でないか」
 星をさされて、兼輔はいよいよ怯《ひる》んだが、叔父にいやな顔をされるのはもとより覚悟の上であるので、彼はかくさず答えた。
「余人でもござりませぬ。関白殿|御内《みうち》に御奉公する、玉藻という女子でござりまする」
 関白殿をかさに被《き》て、彼はかたくなな叔父をおさえつけようとしたが、それは手もなく刎ね返されてしまった。
「たとい御内の御仁《ごじん》であろうとも、わしは女子に逢わぬことに決めている。対面はならぬ
前へ 次へ
全285ページ中113ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング