入道はまだ知るまい。頼長はこの兄を押し傾けようと内々に巧《たく》んでいるのじゃ」
「よもや左様な儀は……」と、信西はすぐに打ち消した。
「いや、証人がある。彼が口から確かに言うたのじゃ」
余人に洩らすなと口止めをしたのを忘れたように、忠通自身がその秘密をあばいた。
「その証人は……」
相手のおちついているのが、忠通には小面《こづら》が憎いように見えた。
「証人は玉藻じゃ。彼はきのう玉藻に猥りがましゅう戯れて、あまつさえそのようなことを憚りもなしに口走ったのじゃ」
「ほう、玉藻が……」
信西のひとみは忠通と同じように鋭く晃《ひか》った。
二
それから二日経って、玉藻のもとへ左少弁兼輔の使いが来た。彼はこのあいだの約束を果たすために、あすは法性寺へ誘いあわせて詣ろうというのであった。玉藻は承知の返し文《ぶみ》をかいた。そのあくる日、彼女は主人の許しを受けて、兼輔と一緒に法性寺へ参詣した。
その日は薄く陰っていて、眠たいような空の下に大きい寺の甍《いらか》が高く聳えていた。門をくぐると、長い石だたみのところどころに白い花がこぼれて、二、三羽の鳩がその花びらをついばむよう
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