蛇 可哀そうでも仕方がない。今もいう通り、弱いものは強い者に呑まれるのだ。おれが決めたのではない、神様がそう決めたのだ。
娘 でも、あんまりむごいことを……。
(蛙は救いを求むるがごとくに、娘の袖のかげに隠れる。)
娘 後生だからこの蛙を助けてやって下さいな。わたしが頼みますから……。
蛇 おまえが頼むか。
娘 この通り、拝みますから。
蛇 よし、ゆるしてやろう。
娘 ほんとうですか。まあ、嬉しい。(蛙にむかいて。)さあ、お前、早くお逃げよ。これにこりて、もううっかりと陸《おか》へ上がるんじゃないよ。
(蛙は喜びて早々に池へ逃げ去る。)
娘 御覧なさい。あの通り喜んで逃げて行きましたよ。ああ、わたしはほんとうによい功徳《くどく》をしました。
蛇 お前はほんとうに善いことをした。
娘 こんな嬉しいことはありません。
蛇 それでおれはお前のたのみをきいた。その代りにお前もおれの頼みをきくだろうな。
娘 お前の頼みというのは……。
蛇 おまえの婿になりたい。
娘 え。
蛇 おまえのような美しい女の婿になりたいのだ。
娘 でも、親達が承知しないでは……。
蛇 親達などはどうでもよい。おれは
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