。おとなしくしていろ。
(蛙は葉をかぶりしまま逃げんとす。)
蛇 ええ、逃げても駄目だぞ。おれにみこまれたらもう一と足でも動けるものか、はははははは。
(蛙は小さくなりてうずくまる。蛇はしずかにねらい寄る。蛙は這いながら逃げまわる。以前の娘又もや衣《きぬ》をかかえていず。)
娘 どうしても明日《あした》は雨らしい。降らないうちにもう一枚洗って置こう。(云いつつ歩み来たりしが、このていを見るより走り寄る。)まあ、待ってください。可哀そうにこんな小さな蛙をどうするのです。
蛇 どうするといって、強いものに出逢った弱い者の運命は大抵きまっているのだ。
娘 でも、あんまり可哀そうで……。まあ、御らんなさい。あんなに小さくなってふるえていますよ。
蛇 今にふるえることも出来なくなるのだろう。
娘 後生《ごしょう》ですからその蛙を堪忍してやってくださいな。今わたしがあの着物を洗っていたときに、面白そうに唄っていたのはきっとあの蛙でしたよ。
蛇 そうかも知れない。誰でも運命の手に掴まれるまでは、なんにも知らずにいるものだ。
娘 なんにも知らずにいる者を殺すのはあんまり可哀そうでしょう。無慈悲でしょう
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