ろう。どうかして一遍聞きたいものだ。時に蟹の叔父さんはどうしたろうな。相変らず口から泡をふいて高いびきで寝ているのだろうな。(柳の蔭をのぞく。)なるほど、強いものは違ったものだ。こんなところでいい心持そうに寝ているな。一体、きょうは風も吹かず、日も照らず、なんだか薄ら眠いような日和だ。おれもさっきから唄いくたびれたから、ここらで一と寝入りやらかすかな。これを頭にかぶっていれば、誰もちょいと気がつくまいよ。
(蛙は蓮の葉をかぶりて寝る。蛇いず。頭には蛇をいただきて、身には鱗の模様ある衣《きぬ》を被たり。)
蛇 このごろは蛙もなかなか利口になって、遠くからおれの姿を見ると、すぐに水へ飛び込んでしまうから、容易にこっちの口へ入るようなことがない。なんでも油断しているところを不意に飛び付いて、一と息に呑んでしまわなければいけないのだ。(云いつつかの蓮の葉に眼をつける。)や、あの蓮の葉がおかしいぞ。どれ、どれ。
(蛇は進んで蓮の葉のそばへ行き、足にて軽くうごかせば、蛙は葉のあいだより顔を出し、蛇を見るよりはっと縮まる。)
蛇 案の定《じょう》、こんなところに隠れていた。さあ、もう逃がしはしないぞ
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