。
蛙 蟹の叔父さんのように黙っていると、おらあ病気になってしまうよ。こうして時々に陸《おか》へあがって来て、唄ったり踊ったりするのが何よりの楽しみなんだ。
蟹 陸には怖いものがいるのを知らないか。
蛙 人間の子供なんか、怖いものか。あいつ等がつかまえに来れば、おらあすぐに水に飛び込んでしまうから大丈夫だ。
蟹 おまえ達には人間よりももっと怖いものがいるぞ。
蛙 なんだろう。(考える。)むむ。蛇か。
蟹 その蛇だ。蛇は人間よりも足がはやい。木のかげや草のあいだに隠れていて、お前たちの姿を見付けると、不意にするすると駈けて来て、あたまから一と呑みに呑んでしまうぞ。蛇はおまえ達に取っては何よりもおそろしい敵だ。蛇にみこまれたが最後、とても逃がれることは出来ないのだから、そのつもりで用心しろ。
蛙 蛇はそんなに強いかねえ。
蟹 おまえ達よりも確かに強い。
蛙 じゃあ、叔父さんだってかなわないだろう。
蟹 いや、おれはこの通り頑丈な甲《よろい》で身をかためている。おまけに[#「おまけに」は底本では「おまえに」]こういう鋭い武器をもっているから、蛇の方で却って怖がるくらいだ。
蛙 なるほど叔父さ
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