か、穴にかくれた蟹釣ろか。
(わらべ等は唄い終りて、更にはじめの唄をくり返しつつあゆみ去る。水の音しずかにきこゆ。蓮の葉をかき分けて、小さき蛙は頭に大いなる蓮の葉をかぶりておどりいず。)
蛙 ええ、さうぞうしい餓鬼共だ。子供というものはなぜああ騒ぎたいのだろう。いや、そう云えば俺だって子供だ。陰《くも》ってあたたかい静かな晩などは、なにか一つ唄ってみたいような気がして、精一ぱいの大きな声を出して、あたり構わずにぎゃあぎゃあ呶鳴ることもあるから、あんまり人間の悪口も云えまいよ。いたずらっ児ももう行ってしまったようだ。おれも一番陽気に唄ってやろうか。
(蛙はあたりを見まわして、唄いながら踊る。)
蛙 人を釣ろうか、こどもを釣ろか。死んだ振して子供を釣ろか。……ああ、面白い、面白い。
(蛙は蓮の葉を地にしきて坐す。柳のかげより大いなる赤き蟹いず。蟹は武装して、鋏のごとき刃をつけたる長刀《なぎなた》を携えたり。)
蛙 やあ、蟹の叔父さんだね。
蟹 人間の子供もそうぞうしいが、おまえも随分そうぞうしいな。あけても暮れても騒いでいる。蛙の子は蛙とはよく云ったものだ。おれ達を見習ってちっと黙っていろ
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