く泣いていた。いや、お話にならない始末だ。
 それから僕は墓前に参拝して、まだ名残り惜しそうに立っている清をうながすようにして、寺を出た。そこで僕は初めて口を開いた。
「どうも突然でおどろいたよ。」
「君もおどろいたろう。」と、清は俄かに昂奮するように言った。「話を聞いただけでもおどろくに相違ない。いや、誰だっておどろく……。ましてそれを目撃した僕は……僕は……。」
「目撃した……、君は妹の臨終に立会ってくれたのかね。」
「君は美智子さんが、どうして死んだのか……。それをまだ知らないのか。」
「実はいま着いたばかりで、まだなんにも知らないのだ。」と、僕は言った。「いったい、妹はどうして死んだのだ。」
「君はなんにも知らない……。」と、彼はちょっと不思議そうな顔をしたが、やがて又、投げ出すように言った。「いや、知らない方がいいかも知れない。」
「じゃあ、美智子は普通の病気じゃあなかったのか。」
「勿論だ。普通の病気なら、僕はどんな方法をめぐらしても、きっと全快させて見せる。君の家だって出来るかぎりの手段を講じたに相違ない。しかも相手は怪物だ、海の怪物だ。それが突然に襲って来たのだから、ど
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