僕の家とは親戚関係になっていて、浜崎の息子と僕たちとは従弟《いとこ》同士になっているのだ。
 浜崎のひとり息子の清というのは大阪の或る学校を卒業して、今は自分の家の商売をしている。清と美智子とは従弟同士の許婚《いいなずけ》といったようなわけで、美智子がAの女学校を卒業すると、浜崎の家へ嫁入りする筈になっているのは、すべての人が承認しているのだ。今度も新橋でわかれる時に、「清君によろしく。」と言ったら、美智子は少し紅い顔をしていた。美智子は帰郷して清に逢ったに相違ない。となり同士だからきっと逢っているに決まっている。その美智子が突然に死んだのだから、清はどんなに驚いているか、どんなに悲しんでいるか、それを思うと僕の頭はいよいよ暗くなった。
 もちろん葬式の間に合わないのは僕も覚悟していたが、殊に暑い時季であったために、葬式はもうおとといの夕方に執行されたということを、僕は実家の閾《しきい》をまたぐと直ぐに聞いた。
「じゃあ、早く墓参りに行って来ましょう。」
「ああ、そうしておくれ。美智子も待っているだろう。」と、母は眼をうるませて言った。
 旅装のままで――といったところで、白飛白《しろ
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