続々乗込んで来たのだ。こうなると、誰にでも考えられることは海亀の重量だ。大きい海亀は何貫目の重量があるか、君も知っているだろう。それが無数に乗込んで来て、しかも一匹の甲羅の上に他の一匹が乗る、又その上に一匹が乗るという始末で、かさなりあって乗るのだから堪《たま》らない。大石を積んだ小舟とおなじように、僕たちの舟はだんだんに沈んで行くのほかはない。無益とは知りながら、僕は血の出るような声を振りしぼって救いを呼びつづけたが、なにぶんにも岸は遠い。僕が必死の叫び声も、いたずらに水にひびいて消えてゆくばかりだ。これが平生の夜ならば、沖に相当の漁船も出ているのだが、いかんせん今夜は例の迷信で、広い海に一艘の舟も見えない。浜の者どもは盆踊りで夢中になっているらしい。僕たちが必死に苦しみもがいているのを、黙って眺めているのは今夜の月と星ばかりだ。僕たちの無抵抗をあざけるように、敵はいよいよ乗込んで来る。舟は重くなる。舟舷《ふなべり》から潮水がだんだんに流れ込んで来る。最後の運命はもう判り切っているので、僕は観念の眼をとじて美智子さんを両手にしっかりと抱いた。子供の時からこの海岸に育った僕だ。これが僕
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