れに牡丹燈籠の怪談を結び付けたのである。伴蔵の一条だけが円朝の創意であるらしく思われるが、これにも何か粉本《ふんぽん》があるかも知れない。ともかくも、こうした種々の材料を巧みに組み合わせて、毎晩の聴衆を倦《う》ませないように、一晩ごとに必ず一つの山を作って行くのであるから、一面に於いて彼は立派な創作家であったとも云い得る。
 前にもいう通り、話術の妙をここに説くことは出来ないが、たとえば、かの孝助が主人の妾お国の密夫源次郎を突こうとして、誤って主人飯島平左衛門を傷つけ、それから屋敷をぬけ出して、将来の舅たるべき相川新五兵衛の屋敷へ駈け付けて訴える件《くだ》りなど、その前半は今晩の山であるから面白いに相違ないが、後半の相川屋敷は単に筋を売るに過ぎないで余り面白くもない所である。速記本などで読めば、軽々《けいけい》に看《み》過ごされてしまう所である。ところが、それを高坐で聴かされると、息もつけぬ程に面白い。孝助が誤って主人を突いたという話を聴き、相手の新五兵衛が歯ぎしりして「なぜ源次郎……と声をかけて突かないのだ。」と叱る。文字に書けば唯一句であるが、その一句のうちに、一方には大事|出来《
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