かりが何かの不思議を照し出すのではないかとも危《あやぶ》まれて、夫婦は一面に云ひ知れない不安をいだきながらも、いはゆる怖いもの見たさの好奇心も手伝つて、その日の早く来るのを待ちわびてゐた。
 その九月十二日がいよ/\来た。その夜の月は去年と同じやうに明るかつた。
 あくる十三日、けふも朝から晴れてゐた。午《ひる》少し前に弱い地震があつた。八《や》つ頃(午後二時)に大野屋の伯母《おば》が近所まで来たと云つて、近江屋の店に立寄つた。呼ばれて、おせきは奥から出て来て、伯母にも一通りの挨拶《あいさつ》をした。伯母が帰るときに、お由は表まで送つて出て、往来で小声でさゝやいた。
「おせきの百日目といふのは昨夜《ゆうべ》だつたのですよ。」
「さう思つたからわたしも様子を見に来たのさ。」と伯母も声をひそめた。「そこで、何か変つたことでもあつて……。」
「それがね、姉さん。」と、お由はうしろを見かへりながら摺寄《すりよ》つた。「ゆうべも九つ(午後十二時)を合図におせきの寝床へ忍んで行つて、寐《ね》ぼけてぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]してゐるのを抱き起して、内の人が蝋燭をかざしてみると――壁には骸骨《が
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