する[#「するする」に傍点]と窓の口へ立寄《たちよ》って、両肱《りょうひじ》を張って少し屈《かが》むかと見えたが、何でも全身の力を両腕に籠めて、或物《あるもの》を窓の外へ推出《おしだ》し突出《つきだ》すような身のこなし、それが済むと忽《たちま》ち身を捻向《ねじむ》けて私の顔をジロリ、睨まれたが最期、私はおぼえず悚然《ぞっ》として最初《はじめ》の勇気も何処《どこ》へやら、ただ俯向《うつむ》いて呼吸《いき》を呑んでいると、貴婦人は冷《ひやや》かに笑って又|彼方《あなた》へ向直《むきなお》るかと思う間もなく、室内は再び闇《くら》くなって其《そ》の姿も消え失せた、夢でない、幻影《まぼろし》でない、今夜という今夜は確《たしか》に其《そ》の実地を見届けたのだ、あれが俗《よ》にいう魔とか幽霊とか云うものであろう。
もうこの上は我慢も遠慮もない、その翌朝例の如く食事を初めた時に、私は番人夫婦に向《むか》って、「お前さん達は長年この別荘に雇われていなさるのかね」と、何気なく尋ねると、夫の方は白髪頭《しらがあたま》を撫でて、「はい、私《わたく》しは当年五十七になりますが、丁度《ちょうど》四十一の年からこ
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