見れば尋常一様《じんじょういちよう》の貴婦人で、別に何の不思議もないが、扨《さて》その顔に一種の凄味を帯びていて、迚《とて》も正面から仰《あお》ぎ視《み》るべからざる恐しい顔で、大抵の婦人《おんな》小児《こども》は正気を失うこと保証《うけあい》だ。
扨《さて》その翌朝になると、番人夫婦が甲斐甲斐《かいがい》しく立働《たちはたら》いて、朝飯の卓子《テーブル》にも種々《いろいろ》の御馳走が出る、その際、昨夜《ゆうべ》の一件を噺《はな》し出そうかと、幾たびか口の端《さき》まで出かかったが、フト私の胸に泛《うか》んだのは、若《もし》や夢ではなかったかと云う一種の疑惑《うたがい》で、迂濶《うかつ》に詰《つま》らぬ事を云い出して、飛《とん》だお笑い種《ぐさ》になるのも残念だと、其《そ》の日は何事も云わずに了《しま》ったが、何《ど》う考えても夢ではない、確《たしか》に実際に見届けたに違いない、併《しか》し実際にそんな事のあろう筈がない、恐らくは夢であろう、イヤ事実に相違ないと、半信半疑に長い日を暮して、今日もまた闇《くら》き夜となった、夢か、事実か、その真偽を決するのは今夜にあると、私は宵から寝台
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