いり》して眼が醒めると、何だか頭が重いような、呼吸《いき》苦しいような、何とも云われぬ切ない心持がするので、若《もし》や瓦斯《ガス》の螺旋《ねじ》でも弛《ゆる》んでいるのではあるまいかと、取《とり》あえず寝台《ねだい》を降りて座敷の瓦斯を検査したが、螺旋には更に別条なく、また他《た》から瓦斯の洩《も》れるような様子もない、けれども、何分《なにぶん》にも呼吸《いき》が詰まるような心持で、終局《しまい》には眼が眩《くら》んで来たから、兎《と》にかく一方の硝子《ガラス》窓をあけて、それから半身《はんしん》を外に出して、先《ま》ずほっ[#「ほっ」に傍点]と一息ついた。今夜は月のない晩であるが、大空には無数の星のかげ冴えて、その星明《ほしあかり》で庭の景色もおぼろに見える、昼は左《さ》のみとも思わなかったが、今見ると実に驚くばかりの広い庭で、植込《うえこみ》の立木は宛《まる》で小さな森のように黒く繁茂《しげ》っているが、今夜はそよ[#「そよ」に傍点]との風も吹かず、庭にあるほどの草も木も静《しずか》に眠って、葉末《はずえ》を飜《こぼ》るる夜露の音も聞《きこ》えるばかり、いかにも閑静《しずか》な夜
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