中を歩く奴があるものか、待て待て、俺が始末をして遣ると、背後から手を伸して其《そ》の後褄《うしろづま》を引あげ、裳をクルリと捲る途端にピカリ、はッと思って目を据えると、驚くべし、小僧の尻の左右に金銀の大きな眼があって、爛々として我を睨むが如くに輝いているから、一時は思わず悸然《ぎょっ》としたが、流石《さすが》は平生から武芸自慢の男、この化物|奴《め》と、矢庭に右手《めて》に持ったる提灯を投げ捨てて、小僧の襟髪掴んで曳とばかりに投出すと、傍《かたえ》のドンドンの中へ真逆《まっさか》さまに転げ墜ちて、ザンブと響く水音、続いて聞ゆるはカカカカと云うような、怪しい物凄い笑い声、提灯は消えて真の闇。
汝《おの》れ化物、再び姿を現わさば真二つと、刀の柄に手をかけて霎時《しばし》の間、闇《くら》き水中を睨み詰めていたが、ただ渦巻落つる水の音のみで、その後は更に音の沙汰もない。ええ忌々《いまいま》しい奴だと呟きながら、其《その》夜は其《その》ままに邸《やしき》へ帰ったが、扨《さて》能《よ》く能く考えて見ると、あれが果して妖怪であろうか、万一我が驚愕《おどろき》と憤怒《いかり》の余りに、碌々に其《そ》
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