違う夫婦は余り多くは見当らなかった。年の若いお菊にはそれが余りに不釣合のように思われた。まだその上に若旦那は色の黒い、骨の太い、江戸の人とは受取れないような、頑丈な不粋《ぶいき》な男振で、まるで若いお内儀さんとは比べ物にならなかった。何のこともない、五月人形の鐘馗様とお雛様とを組み合せたようなもので、余りに若いお内儀さんが痛々しかった。殊に新参ながらも入婿の事情を薄々知っているお菊は、五百両の金の型に身を売ったような若いお内儀さんの不運には愈《いよい》よ同情していた。
他人の眼から見てすらもそうである。まして現在の阿母《おふくろ》様の身になったら、その不釣合も愈よ眼に立つことであろう。若いお内儀さんも可哀そうに思われることであろう。人の善い若旦那を指して、心の好くない者というのは、些《ちっ》と受取り難《にく》い話ではあるが、何方《どっち》にしても阿母様の心では若旦那を追い出したいに相違ない。それは無理もないことだと彼女《かれ》は思った。しかし自分がそんな空怖しい役目を引受けて、何の恨《うらみ》もない若旦那に無実の云い懸けをするなどとは、飛んでも無いことだと彼女《かれ》は又思った。
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