黄八丈の小袖
岡本椅堂

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)白子《しろこ》屋

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)取|鎮《しづ》める

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「日+向」、第3水準1−85−25]
−−

     上

「あの、お菊。ちょいとここへ来ておくれ。」
 今年十八で、眉の可愛い、眼の細い下女のお菊は、白子《しろこ》屋の奥へ呼ばれた。主人《あるじ》の庄三郎は不在《るす》で、そこには女房のお常と下女のお久とが坐っていた。お久はお菊よりも七歳《ななつ》の年上で、この店に十年も長年《ちょうねん》している小賢《こざか》しげな女であった。
 どんな相談をかけられたか知らないが、半※[#「日+向」、第3水準1−85−25]《はんとき》ほどの後《のち》にここを出て来たお菊の顔色は水のようになっていた。お菊は武州越ヶ谷の在から去年の春ここへ奉公に来て、今年の二月の出代りにも長年して、女房のお常にも娘のお熊にも可愛がられていた。時々
次へ
全23ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング