たち四、五人と往来で遊んでいると、そのうちの一人が不意にあら[#「あら」に傍点]と叫んだ。
「お兼ちゃん。どこへ行っていたの。」
 お兼ちゃんというのは、この町内の数珠《じゅず》屋のむすめで、午《ひる》すぎの八つ(午後二時)を合図に、ほかの友達と一緒に手習いの師匠の家から帰った後、一度も表へその姿をみせなかったのである。お兼はおなおさんとおない年の、色の白い、可愛らしい娘で、ふだんからおとなしいので師匠にも褒められ、稽古朋輩にも親しまれていた。
 このごろの春の日ももう暮れかかってはいたが、往来はまだ薄あかるいので、お兼ちゃんの青ざめた顔は誰の眼にもはっきりと見えた。ひとりが声をかけると、ほかの小娘も皆ばらばらと駈け寄ってかれのまわりを取巻いた。おなおさんも無論に近寄って、その顔をのぞきながら訊《き》いた。
「おまえさん、どうしたの。さっきからちっとも遊びに出て来なかったのね。」
 お兼ちゃんは黙っていたが、やがて低い声で言った。
「あたし、もうみんなと遊ばないのよ。」
「どうして。」
 みんなは驚いたように声をそろえて訊《き》くと、お兼はまた黙っていた。そうして、悲しそうな顔をしなが
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