異妖編
岡本綺堂

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)嘉永《かえい》初年の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|時《とき》か

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あら[#「あら」に傍点]と
−−

 K君はこの座中で第一の年長者であるだけに、江戸時代の怪異談をたくさんに知っていて、それからそれへと立て続けに五、六題の講話があった。そのなかで特殊のもの三題を選んで左に紹介する。

     一 新牡丹燈記

 剪燈新話のうちの牡丹燈記を翻案した、かの山東京伝の浮牡丹全伝や、三遊亭円朝の怪談牡丹燈籠や、それらはいずれも有名なものになっているが、それらとはまたすこし違ってこんな話が伝えられている。
 嘉永《かえい》初年のことである。四谷塩町の亀田屋という油屋の女房が熊吉という小僧をつれて、市ヶ谷の合羽坂下を通った。それは七月十二日の夜の四つ半(午後十一時)に近いころで、今夜はここらの組屋敷や商人店《あきんどみせ》を相手に小さい草市《くさいち》が開かれていたのであるが、山の手のことであるから月桂寺の四つの鐘を合図に、それ
次へ
全31ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング