ったそうです。それが連隊にきこえて、大勢の兵士が捜索に来たんですが、なんだか怖くなって、奥の奥まで進んで行くことが出来ない。二人の兵士は結局どうしてしまったのか判らないということです。」
「不思議な話ですね。」と、僕も息をつめて聞いていた。それと同時に、アンの運命もたいてい想像されるように思われた。
「ここまでお話しすれば大抵お判りでしょう。」と、早瀬君も言った。「アンは金に困った苦しまぎれに、自分から思い立ったのか、あるいは女にそそのかされたのか、いずれにしても朱丹の墓からあの三十万弗を盗み出そうとして、十一月の初めごろに、女と一緒に森林の奥へ忍んで行ったんです。朱丹の霊魂がその財《たから》を守っている――その伝説をアンは無論に知っていたでしょうし、またそれを信じていたでしょうが、恋に眼のくらんでいる彼はその怖ろしいのも忘れてしまって、いや、怖ろしいと思いながらも、金がほしさに最後の決心を固めたのでしょう。女は危ぶんでしきりに止めたのを、アンは肯かずに断行したんだそうですが、それはどうだか判りません。
ともかくも女の言うところによると、二人は墓の入口まで行って、アンがまず忍び込んだ
前へ
次へ
全14ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング