ござります。」と、僧は低い溜息をついた。「妹はわたしの二十四の年に歿しました。その翌年に母が亡くなりました。又その翌年に父が死にました。」
「三年つづいて……。」と、叔父も思わず眉をよせた。
「はい、三年のうちに両親と妹がつづいて世を去ったのでござります。なにしろこんな辺鄙《へんぴ》なところですから、鎌倉への交通などは容易に出来るものではなく、父からは何の便りもありませんので、妹のことも母の事もわたしはちっとも知らずにおりました。それでも父の死んだ時には村の人々から知らせてくれましたので、おどろいで早々に帰ってみますと、母も妹も、もうとうに死んでいるということが初めて判りました。わたしはいよいよ驚きました。」
「ごもっともで……。お察し申します。」と、叔父も同情するようにうなずいた。「それから引きつづいてここにおいでになるのでございますか。」
「両親はなし、妹はなし、こんなあばら家一軒、捨てて行っても惜しいことはないのですが……。ある物に引留められて、どうしてもここを立去ることが出来なくなりました。唯今も申す通り、三年、五年、十年……。あるいは一生でも……。その役目を果たさぬうちは、こ
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