くろん坊
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)享和《きょうわ》雑記

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|丈《じょう》も

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うけたまわって [#「うけたまわって 」はママ]
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     一

 このごろ未刊随筆百種のうちの「享和《きょうわ》雑記」を読むと、濃州《のうしゅう》徳山くろん坊の事という一項がある。何人《なんぴと》から聞き伝えたのか知らないが、その附近の地理なども相当にくわしく調べて書いてあるのを見ると、全然架空の作り事でもないらしく思われる。元来ここらには黒ん坊の伝説があるらしく、わたしの叔父もこの黒ん坊について、かつて私に話してくれたことがある。若いときに聞かされた話で、年を経るままに忘れていたのであるが、「享和雑記」を読むにつけて、古い記憶が図らずもよみがえったので、それを機会に私もすこしく「黒ん坊」の怪談を語りたい。

 江戸末期の文久二年の秋――わたしの叔父はその当時二十六歳であったが、江戸幕府の命令をうけて美濃《みの》の大垣へ出張することになった
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