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曹長点燈す。兵士等大将のエボレット勲章等を見て食せんとするの衝動《しょうどう》甚《はなはだ》し。
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大将「間抜けめ、どれもみんなまるで泥《どろ》人形だ。」
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脚を重ねて椅子《いす》に座す。ポケットより新聞と老眼鏡とを取り出し殊更《ことさら》に顔をしかめつつこれを読む。しきりにゲップす。やがて睡《ねむ》る。
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曹長(低く。)「大将の勲章は実に甘《うま》そうだなあ。」
特務曹長「それは甘そうだ。」
曹長「食べるというわけには行かないものでありますか。」
特務曹長「それは蓋《けだ》しいかない。軍人が名誉《めいよ》ある勲章を食ってしまうという前例はない。」
曹長「食ったらどうなるのでありますか。」
特務曹長「軍法会議だ。それから銃殺《じゅうさつ》にきまっている。」間、兵卒一同再び倒る。
曹長(面《おもて》をあぐ。)「上官。私は決心いたしました。この饑餓陣営の中に於《お》きましては最早《もはや》私共の運命は定《さだ》ま
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