は馬鹿だとみんなが云って居《お》りました。
それは全くその通りでした。杉は五年までは緑いろの心《しん》がまっすぐに空の方へ延びて行きましたがもうそれからはだんだん頭が円く変って七年目も八年目もやっぱり丈《たけ》が九尺ぐらいでした。
ある朝虔十が林の前に立っていますとひとりの百姓が冗談《じょうだん》に云いました。
「おおい、虔十。あの杉ぁ枝打《えだう》ぢさなぃのか。」
「枝打ぢていうのは何だぃ。」
「枝打ぢつのは下の方の枝山刀で落すのさ。」
「おらも枝打ぢするべがな。」
虔十は走って行って山刀を持って来ました。
そして片っぱしからぱちぱち杉の下枝を払《はら》いはじめました。ところがただ九尺の杉ですから虔十は少しからだをまげて杉の木の下にくぐらなければなりませんでした。
夕方になったときはどの木も上の方の枝をただ三四本ぐらいずつ残してあとはすっかり払い落されていました。
濃《こ》い緑いろの枝はいちめんに下草を埋《う》めその小さな林はあかるくがらんとなってしまいました。
虔十は一ぺんにあんまりがらんとなったのでなんだか気持ちが悪くて胸が痛いように思いました。
そこへ丁度虔十の
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