んに教えられたように今度は北の方の堺《さかい》から杉苗の穴を掘りはじめました。実にまっすぐに実に間隔《かんかく》正しくそれを掘ったのでした。虔十の兄さんがそこへ一本ずつ苗を植えて行きました。
 その時野原の北側に畑を有《も》っている平二がきせるをくわえてふところ手をして寒そうに肩《かた》をすぼめてやって来ました。平二は百姓《ひゃくしょう》も少しはしていましたが実はもっと別の、人にいやがられるようなことも仕事にしていました。平二は虔十に云いました。
「やぃ。虔十、此処《ここ》さ杉植えるな※[#小書き平仮名ん、177−14]てやっぱり馬鹿《ばか》だな。第一おらの畑ぁ日影《ひかげ》にならな。」
 虔十は顔を赤くして何か云いたそうにしましたが云えないでもじもじしました。
 すると虔十の兄さんが、
「平二さん、お早うがす。」と云って向うに立ちあがりましたので平二はぶつぶつ云いながら又《また》のっそりと向うへ行ってしまいました。
 その芝原へ杉を植えることを嘲笑《わら》ったものは決して平二だけではありませんでした。あんな処に杉など育つものでもない、底は硬《かた》い粘土《ねんど》なんだ、やっぱり馬鹿
前へ 次へ
全12ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング