うしろの野原さ。」
 そのとき虔十の兄さんが云いました。
「虔十、あそごは杉植ぇでも成長《おが》らなぃ処《ところ》だ。それより少し田でも打って助《す》けろ。」
 虔十はきまり悪そうにもじもじして下を向いてしまいました。
 すると虔十のお父さんが向うで汗《あせ》を拭《ふ》きながらからだを延ばして
「買ってやれ、買ってやれ。虔十ぁ今まで何一つだて頼《たの》んだごとぁ無ぃがったもの。買ってやれ。」と云いましたので虔十のお母さんも安心したように笑いました。
 虔十はまるでよろこんですぐにまっすぐに家の方へ走りました。
 そして納屋《なや》から唐鍬《とうぐわ》を持ち出してぽくりぽくりと芝《しば》を起して杉苗を植える穴を掘《ほ》りはじめました。
 虔十の兄さんがあとを追って来てそれを見て云いました。
「虔十《けんじゅう》、杉ぁ植える時、掘らなぃばわがなぃんだじゃ。明日まで待て。おれ、苗買って来てやるがら。」
 虔十はきまり悪そうに鍬を置きました。
 次の日、空はよく晴れて山の雪はまっ白に光りひばりは高く高くのぼってチーチクチーチクやりました。そして虔十はまるでこらえ切れないようににこにこ笑って兄さ
前へ 次へ
全12ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング