兄さんが畑から帰ってやって来ましたが林を見て思わず笑いました。そしてぼんやり立っている虔十にきげんよく云いました。
「おう、枝集めべ、いい焚《た》ぎものうんと出来だ。林も立派になったな。」
そこで虔十もやっと安心して兄さんと一緒《いっしょ》に杉の木の下にくぐって落した枝をすっかり集めました。
下草はみじかくて奇麗《きれい》でまるで仙人《せんにん》たちが碁《ご》でもうつ処のように見えました。
ところが次の日虔十は納屋で虫喰《むしく》い大豆《まめ》を拾っていましたら林の方でそれはそれは大さわぎが聞えました。
あっちでもこっちでも号令をかける声ラッパのまね、足ぶみの音それからまるでそこら中の鳥も飛びあがるようなどっと起るわらい声、虔十はびっくりしてそっちへ行って見ました。
すると愕《おど》ろいたことは学校帰りの子供らが五十人も集って一列になって歩調をそろえてその杉の木の間を行進しているのでした。
全く杉の列はどこを通っても並木道《なみきみち》のようでした。それに青い服を着たような杉の木の方も列を組んであるいているように見えるのですから子供らのよろこび加減と云ったらとてもありません
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