した。その虔十という人は少し足りないと私らは思っていたのです。いつでもはあはあ笑っている人でした。毎日丁度この辺に立って私らの遊ぶのを見ていたのです。この杉もみんなその人が植えたのだそうです。ああ全くたれがかしこくたれが賢《かしこ》くないかはわかりません。ただどこまでも十力《じゅうりき》の作用は不思議です。ここはもういつまでも子供たちの美しい公園地です。どうでしょう。ここに虔十公園林と名をつけていつまでもこの通り保存するようにしては。」
「これは全くお考えつきです。そうなれば子供らもどんなにしあわせか知れません。」
 さてみんなその通りになりました。
 芝生《しばふ》のまん中、子供らの林の前に
「虔十公園林」と彫《ほ》った青い橄欖岩《かんらんがん》の碑《ひ》が建ちました。
 昔のその学校の生徒、今はもう立派な検事になったり将校になったり海の向うに小さいながら農園を有《も》ったりしている人たちから沢山《たくさん》の手紙やお金が学校に集まって来ました。
 虔十のうちの人たちはほんとうによろこんで泣きました。
 全く全くこの公園林の杉の黒い立派な緑、さわやかな匂《におい》、夏のすずしい陰《か
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